2025年10月、中小企業庁が「新事業進出補助金」第1回公募の採択結果を発表しました。公募期間は令和7年4月22日から7月15日までで、全国から3,006件の申請がありました。そのうち1,118件が採択され、米国の追加関税措置で影響を受けた企業への優先枠を含めると590件が加点対象でした。
採択率は約37.2%であり、制度設計時に想定されていた25%程度を大きく上回り、30%を超えています。
事業再構築補助金の採択率よりも大幅に改善されており、今後申請する事業者にとってチャンスといえるでしょう。
本記事では、応募・採択件数の概要から業種別の傾向、採択された事例の特徴までを詳しく解説し、次回以降の申請を検討する事業者に向けたポイントをまとめます。
Contents
応募・採択件数の概要と採択率
- 応募数と採択数:第1回公募では3,006件の応募に対して1,118件が採択されました。採択率は37.2%となりました。
- 当初の想定:新事業進出補助金は当初採択率が公式資料より約15%と想定されていました。そのため、当初の想定よりも大幅に採択率が高くなったといえます。(関連記事:新事業進出補助金の採択率は?他補助金との比較)
- 優先枠について:米国の追加関税措置により影響を受けた事業者には加点が行われ、590社が優先採択対象でした。これは全採択件数の約53%に相当し、国際情勢を踏まえた支援が行われていることが分かります。
なお、事業再構築補助金の最終公募近辺の採択率や応募件数は下記の通りでした。
| 公募回 | 応募件数 | 採択件数 | 採択率(報告値) |
|---|---|---|---|
| 第13回 | 3,100件 | 1,101件 | 35.5% |
| 第12回 | 7,664件 | 2,031件 | 26.5% |
| 第11回 | 9,207件 | 2,437件 | 26.5% |
新事業進出補助金の第採択率37.2%はこのいずれよりも採択率が高いことから、チャレンジする価値が十分にある補助金と言えるでしょう。
採択率が想定よりも高かった理由
採択率が事務局想定よりも大幅に高かった理由は想定よりも大幅に応募者数が少なかったことにあります。
独立行政法人中小企業基盤整備機構の「システム要件定義書(案)」によると、1回の公募あたりの応募件数は10,000件、採択件数は1,500件が想定されていました。
これを基にすると、採択率は約15%と試算されます。
P9に下記のように記載がありました。
(2) 業務規模の想定 (新事業進出補助金の場合)
ア 公募回ごとの事業者数
• 応募事業者は約 10,000 者/公募回を想定する。
• 交付採択事業者は約 1,500 者/公募回を想定する。
イ 事務局側ユーザ数
• 事務局内管理者・オペレータ数は必要数を用意すること。
• 外部審査員は1審査3名が対応できる数を想定すること。
• 中小機構等は約 50 名を想定する。(新事業進出補助金 システム要件定義書(案)P9)
1回の公募あたりの応募件数は10,000件の想定が実際は3,006件、採択件数は1,500件の想定が実際は1,118件でした。
応募者数が想定よりも約7,000件も少なかったことから、採択率が大幅に想定よりも高かったと思われます。
次回以降の採択率の見通し
今回の採択率が想定より高くなったのは、応募件数が想定を大幅に下回ったことが主因でした。では、次回以降の採択率はどのように推移していくのでしょうか。
結論としては、次回以降も比較的高い採択率が続く可能性があります。その理由は以下の3点です。
応募者数が大幅に増えるとは考えにくい
初回公募で3,006件にとどまった応募数が、次回以降に急増する要素は現時点で限定的です。制度そのものの知名度がまだ低く、また申請書作成のハードルが高いため、中小企業全体に一気に広がるには時間がかかると考えられます。
採択者数も想定より低い
当初は1回あたり1,500件程度の採択を見込んでいましたが、実際は1,118件にとどまりました。採択件数の上限を必ずしも使い切っていない状況があり、次回も同様の水準で採択が行われる可能性が高いです。
予算が余っている状況
新事業進出補助金は既存の基金を活用しており、1,500億円規模の予算が用意されています。第1回の応募数・採択数を見る限り、想定よりも予算消化が進んでいない状況です。そのため、今後の公募でも予算を有効に活用するため、一定以上の採択率を維持することが想定されます。
以上の点から、次回以降の採択率も30%前後と比較的高い水準が続く可能性が高いと考えられます。
業種別の採択状況
応募・採択件数は製造業、卸売業・小売業、建設業の順に申請・採択件数が多いという傾向が見られます。
ただし、採択数は上位3業種に偏らず、情報通信業やサービス業、農業・林業など幅広い分野から採択されています。
特に製造業については、ものづくり補助金や中小企業省力化投資補助金ほどの優遇は見られませんでした。
このことから、新事業進出補助金は特定業種を優遇するのではなく、いかに成功性の高い事業計画を策定していくかということが重視されていると考えられます。
主な採択業種と特徴
| 業種 | 採択の特徴 | 代表的な事例 |
|---|---|---|
| 製造業 | 新素材・リサイクル技術、高度加工技術を用いた新製品の開発が目立ちます。カーボンニュートラルや資源循環を意識した製品が多く、従来の加工技術を応用した新規事業が多い | 低炭素コンクリート製品の開発・製造、炭素繊維複合材のリサイクルによる再生材供給 |
| 卸売・小売業 | 地域食材や特産品を利用した高付加価値商品の販売や全国へのEC展開が多い。中古車やリユース市場への進出など、既存資源を活用した循環型ビジネスも見られる | 北海道の海の恵みを活かした高品質レトルト食品事業、地元果物を使った高付加価値アイス製造販売事業 |
| 建設業 | 解体・再資源化技術、新しい施工技術への挑戦が多い。大型機械導入による環境配慮型建材生産や、ペットと泊まれる宿泊施設への造園技術応用など、既存技術を異分野に展開する事例が多い | 型枠工事対応による短納期施工、造園技術を活かしたペットと泊まれる宿 |
| 情報通信業 | AI・DXを活用したサービス開発が多数。生成AIやAI解析、クラウドサービスなどデジタル技術を活用した新市場開拓が目立つ | AI搭載ロボット事業の新展開と研究施設開設、AIを活用したCFO機能サービス、生成AI技術を活用した介護事業所向けナレッジ共有事業 |
| サービス業(その他) | 外国人材循環事業やシェアスタジオ、DX交通支援など地域の課題を解決するサービスが多く採択されました。 | DX配車支援事業、シェアスタジオ&バレエ教室による地域活性化 |
| 農業・林業 | 六次産業化や観光との連携により、生産から加工・販売まで一貫した取り組みが多い。 | 自社栽培そばを活用した農家直営飲食店、乳製品製造事業 |
特に採択されやすいテーマ4選
新事業進出補助金の中でも特に採択されやすいテーマは下記の4点でした。
- 地域資源の高付加価値化
- 環境・循環型社会への対応
- AI・DX導入
- 観光やインバウンド関連
具体的に解説していきます。
地域資源の高付加価値化:地域と観光を結び付ける
地域の農産物や水産物、伝統文化を活かした高付加価値商品・サービスの開発が多数採択されました。
例えば、地産地消×未利用食材で展開する循環型レストラン事業は、北海道で地産地消と未利用食材を組み合わせ、循環型のレストランを実現するプロジェクトです。
また、北海道噴火湾の水産資源を活かした高品質レトルト食品や、余市町水産物の高付加価値販売による観光連携型新事業など、漁業資源を観光や加工に結びつけた取り組みが目立ちます。
農業分野では、自社栽培そば活用の農家直営飲食店の開業や、親子向け冷凍食品製造販売など、地元の作物に付加価値を持たせる事例が多く、農家が加工から販売まで手掛ける「六次産業化」が進んでいます。
さらに、アンフォラ醸造×CO₂活用型ドライアイス製造事業、オーガニックワイン醸造事業など、ワインや酒類に関連した新規事業も採択され、地域の農業と観光を結び付けています。
こうした地域資源の高付加価値化は単なる商品開発だけでなく、体験型観光と結び付けることでさらなる経済効果を生みます。
例えば、東京では地域観光資源を活用したインバウンド向け体験型観光ホテルの運営計画が採択され、宿泊施設と地域文化を融合させた魅力的なコンテンツを提供しようとしています。
このように、食・宿泊・観光を一体化するビジネスモデルが採択されやすい傾向にありました。
環境・循環型社会への対応:脱炭素とリサイクルが鍵
第二のキーワードは環境・循環型社会です。採択事例には、脱炭素化や資源循環を意識したプロジェクトが多数含まれています。
- 低炭素コンクリート製品の開発と製造:茨城県の企業が環境配慮型低炭素コンクリート製品の開発・製造を計画。建設分野の脱炭素化に貢献する事業として評価されました。
- 炭素繊維複合材(CFRP)のリサイクル:炭素繊維複合材をリサイクルして再生材を供給する事業は、自動車や航空機など高強度材料の循環利用を促進します。
- 木質ペレットの製造・販売:乾燥技術を用いた環境に優しい木質ペレットの製造・販売事業が採択され、再生可能エネルギー利用の拡大を図ります。
- フードロス削減と循環型干し芋事業:バイオプラントを導入しフードロスを解決しながら干し芋を生産する循環型プロジェクトも採択されました。食品廃棄物をエネルギーや肥料に変えることで地域循環を実現します。
その他にも、廃太陽光パネルから高純度資源を抽出して国産パネルへ再利用する取り組みや、リサイクルポリエステル市場への進出、廃プラスチックを原料とした新製品開発など多様なリサイクル事業が採択されており、資源循環型社会の実現に向けた新ビジネスの積極的な支援がうかがえます。
AI・DX導入による効率化と新市場開拓
第三のキーワードはAI・DX(デジタルトランスフォーメーション)です。情報通信業だけでなく、他の業種でもAIやデジタル技術を活用した新事業が目立ちました。
- AI搭載ロボット事業と実証実験Labの開設:東京都の企業がAI搭載ロボット事業を新展開し、実証実験ラボを設立する計画が採択。これにより、人手不足が深刻な製造・物流現場の効率化が期待されます。
- AIを活用したCFO機能サービス:財務・会計分野でAIを活用し、中小企業のCFO機能を代替・支援するサービスが採択。専門知識をAIに置き換えることで経営支援の裾野を広げます。
- 法人向けAIコールセンター支援事業:マニュアル制作会社によるAIコールセンター支援事業は、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)とAI技術を融合させ、顧客対応の効率化を図ります。
- 生成AI技術を活用した介護事業所向けナレッジ共有システム:介護現場のナレッジを生成AIで共有するプロジェクトは、サービス業や福祉分野でもDX化が進んでいることを象徴しています。
- AIキャラIP×ブロックチェーン事業やAI行動解析による安全教育VRシステム:クリエイティブ領域ではAIキャラIPとブロックチェーンを組み合わせた新事業や、建設業向け安全教育VRシステムにAI行動解析を導入する事業が採択され、AI技術が幅広い産業に応用されていることが分かります。
AI・DX関連の採択案件は、単にIT企業の技術開発に留まらず、製造やサービス、医療・福祉、建設など幅広い業種の業務改善や新市場開拓に活用されていました。
特に、少子高齢化による人手不足やデータ管理の効率化、顧客体験向上を目的とした取り組みが目立ち、デジタル技術の重要性が高まっていることを示しています。
観光・インバウンド・サービス連携の広がり
観光産業や宿泊業との連携も採択案件の大きな特徴です。北海道では、余市ワインを活用した地域連携型観光拠点の開設や、観光客向けたらこブランド発信事業など、特産品と観光を結び付ける取り組みが採択されています。東京では、地域観光資源を活用したインバウンド向け体験型観光ホテルの運営が採択され、地域文化の体験を提供することで外国人観光客を惹きつける計画です。
また、個室×天然温泉貸切風呂完備のRV施設事業やバケーションレンタル事業など、アウトドアや体験型の宿泊プランも採択されました。
これらのプロジェクトは、地域の自然や文化を体験してもらうことで、観光消費を地域内に循環させることを狙っています。観光と農業・水産業、宿泊業を組み合わせた「地域一体型ビジネスモデル」が今後のトレンドとなりそうです。
まとめ
第1回公募の採択結果を分析すると、採択率が想定の25%を大きく上回る37.2%となった要因として、以下の3つの軸が浮かび上がります。
- 地域資源の高付加価値化と観光連携 – 地元の農水産物や文化資源を使い、観光や体験型サービスと組み合わせることで付加価値を創出した事業が多く採択された。地域ならではの独自性が評価されやすい。
- 環境・循環型社会への対応 – 脱炭素やリサイクル、フードロス削減など、環境負荷を低減し資源を循環させる取り組みが強く支持されている。新しい技術や設備導入と組み合わせて実効性を示すことが重要。
- AI・DXの導入による効率化と新市場開拓 – AIやクラウドを活用した業務効率化、生成AIによるサービス創出など、デジタル技術を活用した事業が幅広い分野で採択された。単なるデジタル化に留まらず、既存事業とのシナジーや社会課題の解決を意識することが求められる。
これらの傾向から、次回公募では地域独自の資源を活かしながら環境・デジタル技術を組み合わせた提案が有利になると考えられます。申請予定の事業者は、地方創生や脱炭素、デジタルトランスフォーメーションといったキーワードを取り込みつつ、自社の強みを活かした革新的な事業計画を策定すると良いでしょう。採択率が高いとはいえ、事業内容の独自性や実現可能性、地域への波及効果が審査の重要なポイントになるため、具体的な数値目標や市場分析、経営資源の準備状況を示すことが重要です。
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